円安が止まらない

1ドル、200円が杞憂だとは思えない

政府・日銀が為替介入に踏み切る一つの目安ではないかと市場が見てきた「1ドル=162円」の壁が、ついに突破された。しかも、その勢いは衰える気配がない。円は四十年ぶりの歴史的安値圏に沈み、日本経済は重大な岐路に立たされている。

なぜ162円が「防衛ライン」と見られてきたのか。政府が162円を公式に宣言したわけではない。しかし、これまでの円買い介入や政府・日銀の発言から、市場は「この水準を超えれば、国家として放置できない」と受け止めてきたのである。ところが、今回その壁は破られた。
政府は従来の「水準」ではなく、「急激で投機的な変動」に対して機動的に対応する姿勢へ軸足を移しつつあるとも伝えられている。

円安の最大の犠牲者は国民生活である。

日本はエネルギー、食料、飼料、肥料、医薬品原料など、生活に欠かせないものの多くを輸入に頼る国である。円が安くなれば、輸入価格は一斉に上がる。ガソリン、電気、ガス、パン、小麦、食用油、肉、魚、日用品まで、あらゆる物価が押し上げられる。

企業は価格転嫁を迫られ、家計は実質所得が目減りする。政府がどれだけ補助金を積み上げても、円安が続けば焼け石に水である。

もちろん、円安は輸出企業には追い風となる。しかし、それは一部の大企業の話である。輸入原材料を使う中小企業や地方企業にはコスト増という逆風の方がはるかに大きい。

国民全体で見れば、「円安メリット」より「円安デメリット」の方が重くなりつつあるのではないか。

それにもかかわらず、この国には危機感が足りない。

新聞はもっと書くべきだ。とりわけ経済部は総力を挙げ、「円安が国民生活をどう変えるのか」「企業は何をすべきか」「家計はどう備えるべきか」を連日訴えるべきである。

経済紙である日本経済新聞は、「円安だから仕方がない」と傍観するのではなく、日銀の金融政策、財政運営、生産性向上、エネルギー政策、賃上げ、輸出競争力強化など、円安に歯止めを掛ける具体策を国民に提示し、政府に迫る使命がある。

もし、このまま1ドル200円になったらどうなるか。

輸入物価はさらに高騰し、インフレは一段と加速する。中小企業の倒産は増え、家計は疲弊する。海外旅行や海外留学は一部の富裕層だけのものとなり、日本人の国際競争力は低下する。一方で、海外企業による日本企業や不動産の買収は加速し、日本の富が国外へ流出する懸念も高まる。国家の購買力そのものが弱くなるのである。

円安は、単なる為替の数字ではない。日本の国力そのものを映す鏡である。

私は「1ドル200円など杞憂だ」と笑って済ませる気にはなれない。危機は、危機として直視すべきである。政府はもちろん、日銀も企業も、そして国民一人ひとりも、「円の価値を守る」という国家的課題に向き合う時が来ている。今こそ、危機感を共有し、行動を起こさなければならない。Goto

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