もう一つの結末

袋とじに見る、出版社の心意気。頑張れ!出版業界。
読書といえば、秋の夜長と、相場は決まってるのだが。夏の早朝も読書には相応しい。
今年は梅雨の末期に、長雨で、カラッとした夏空もやっと、蝉の声も今週に入ってから。
窓を開け放ち、早朝の冷気を思いっきり吸い込み。新聞配達のカブの音に。おはよう。ごくろうさまです。と声を掛け。新聞の書籍広告・日曜版の本紹介で、買い貯めた本を開くのは、実に清々しい。(私は朝型人間だからだが)
たいした本を読んでる訳ではないが。最近読んだ小説では、百田尚樹さんの「影法師」が、男の友情を深くえぐり実に、面白かった。彼の作品は代表作「永遠の0」もそうだが、思想が一本通り、常に死を正面に受け止めながら、一方では深い愛情を秘める男の姿に感動する。
で、始めての経験だが。「影法師」。講談社の文庫で読んだのだが。この文庫本。単行本として発売された時にはなかった「もう一つの結末」が巻末に「袋とじ」として付いている。文庫本は単行本の鮮度が落ちてから、発売になるのだが。単行本との差別化を計る意味でも面白い試み。
袋とじといえば。週刊誌のヌード写真を隠す。そんなイメージだが。
正式書類などは、内容の差し替えを防ぐのを目的に、今でも頻繁に使われている。
製法としても古く。中国では明時代。「綫縫」(せんほう)呼ばれていたそうな。
因みに。袋とじのお陰で、普段は、目にも止めなかった。
著者紹介の次のページに掲載されている「講談社文庫刊行の辞」も読んだ。
21世紀を目前に、巨大な転換期をむかえている。
創業者の「ナショナル・エデュケイター」の志を現代に蘇らせんと意図し、東西の名著を網羅し、新しい綜合文庫を発刊する。
激動の転換期は断絶の時代である。我々は戦後25年間の出版文化のあり方への深い反省にたって、この断絶の時代にあえて、人間的な持続を求める。いたずらに浮薄な商業主義のあだ花を追い求めることなく良書に生命を与える。それしか、今後の出版業界の真の繁栄はあり得ない。
綜合文庫発刊を通して、現代社会の瑣末な情報の氾濫から、力強い知識の源泉掘り起こし、技術文明の只中に、生きた人間の姿を復活させること。それがわれらの希求なり。
我々は権威に盲従せず、俗流に媚びることなく、渾然一体となって、日本の草の根を形づくる若い世代に新しい綜合文庫をおくり届けたい。社会に開かれた万人のための大学を目指して。
1971年7月。野間省一。
「決意や良し。覚悟や良し」40年に以上前に、書かれた、講談社綜合文庫発刊の決意文である。
この「辞」と影法師の巻末袋とじの「もう一つの結末」がダブるのは。編集者と著者の絶妙な配慮なのだろうか。頑張れ出版業界!Goto

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