徳利は絶対振るな?
忘年会シーズン。都会は知らないが、田舎は、随分静かになったもんだ。12月に入れば、柳ヶ瀬の夜は、ジングルべルが鳴り響き、千鳥足が街に溢れていた。この二、三年、年末に賑わうのは、二十日過ぎてから。ピークは27,28,29の三日間だそうだ。
冬の柳ヶ瀬とくれば、酒の師でもある親父殿を語らねばなるまい。彼は、特別に用がなければ、毎夜(日曜も祭日も)柳ヶ瀬歓楽街の、決まったコースを、決まった時間に歩き、決まった店に立ち寄る。それを界隈では「ごっちゃんのパトロール」と呼ばれていた。
晩年(65歳で人生を駆け抜けた)、還暦過ぎ、何処のどなたに頂いたのか?膝まで届く長〜い、真っ白な手編みのマフラーを首に巻き付け闊歩してた。顔見知りのおねえさんから「あらごっちゃん、パトロールご苦労様」などと言われ、「おっー」と手を挙げ、ポケットから小さな祝儀袋。
「元気か?彼氏と上手くやってるか?」軽口を叩き、さりげなく祝儀袋(中身は二つに折った千円札一枚)を渡す。「お父さんは、とっても粋な方、柳ヶ瀬ではもう、あんな旦那衆はいなくなった。伜とはずいぶん・・・・」と、まだ現役で頑張る「おねえさん」は懐かしがる。
料亭、料理屋での酒の飲み方、。寿司屋、蕎麦屋、食べ物屋での酒の飲み方。それぞれに違う。食べ物が違い、店が違えば、酒の飲み方も違って当然。コップやおちょこに注いで、ただ飲めばよい。のではない。それはそこ、流儀がある。
飲み方の流儀も知らずに酒飲む奴は、酒飲みの風上にも置けぬ。とは、親父殿の弁。教わったことの一つに、料亭で。「いいか、徳利は絶対に振るな」「耳元で振って中身を確かめるな」「酒がまずくなる。座が白ける」と。残しては勿体ないではないか?
などと、言おうものなら。・・・・・・・。最近は、「酒どころか、ウーロン茶しか出ない宴席があるんですよ。」と柳ヶ瀬の女将。酒といえば、健康に良いと「焼酎、赤ワインを飲む人もいる」。アルコールに良し悪しもあるまいが。気休めなんだろう。
師走の街に溢れてた酔っ払いはどこへ消えたのか?いまや、酒談義、飲み方講義も、聞く人すらいないのか。親父殿、天国で忘年会、「酒の飲み方も知らぬ奴は、天国に来るな。」とぼやきながら「先に逝った仲間を集め「徳利は絶対・・・・・・」などと、酒談義に違いない。 Goto
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