老経営者の独り言。
三十代半ば。職場では中堅と呼ばれ、
これまで真面目にコツコツと働いてきた仲間が、「辞めたい」と漏らす。
給料が安い。仕事に魅力を感じない。朝起きるのがつらい。先が見えない。部下を支えられない。営業が自分に向いていない――。理由は一つではない。積もり積もった迷いが、辛抱の限界にまで達しているのでしょう。
転職サイトを開けば、今より楽で、給料も良さそうな仕事が並ぶ。「年齢的にも最後の機会ではないか」「別の仕事なら、もっと上手くやれるのではないか」。そう思う気持ちも分からぬではありません。
しかし、喜寿を迎えた老経営者として、静かに申し上げたい。
もう一度だけ、今いる場所に根を張ってみないか。
仕事には、面白くなる一歩手前があります。どれだけ努力しても成果が見えず、自分には向いていないと思う時期です。ところが、ほんの小さなきっかけでコツをつかみ、昨日まで見えなかった景色が突然開ける。その一歩手前で、多くの人が歩みを止めてしまいます。実にもったいない。
隣の柿が、いつも甘いとは限りません。新しい職場にも、新しい苦労があります。場所を変えれば自分まで変わるように思えますが、自分自身から逃げ切ることはできない。今の行き詰まりの中にこそ、次の成長に必要な課題が隠れているものです。
もちろん、心身を壊してまで耐えよとは申しません。逃げることと、人生を守るために退くことは違います。しかし、苦しいから、うまくいかないからというだけで、それまで積み上げた経験と信頼を簡単に手放してよいのか。辞表を書く前に、自分の歩みをもう一度振り返ってほしい。
「置かれた場所で咲きなさい」とは、我慢し続けよという意味ではない。咲くための工夫を重ね、自分の持ち味を生かし、周囲を少し明るくする生き方です。今すぐ花が咲かなくてもよい。咲けない時には、地中深く根を張ればよい。
私は、あなたが積み重ねてきた年月を知っています。だからこそ、惜しいのです。あなたは、もう少しで花開くところまで来ている。辞める決断は、いつでもできる。だが、その前に、あと一歩だけ踏みとどまり、誰かに胸の内を話し、もう一度この道を歩いてみてはどうか。
これは引き留めではない。あなたの人生を心から案じる、老経営者からの願いです。Goto


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