受け継ぎ、育てるまち
一週間に一度、まとめて届く宮城県石巻市の夕刊紙「石巻日日新聞」。ページを開くたび、遠く離れていても、ふるさとの空気や人のぬくもりが伝わってくるようであります。
秋を迎える石巻から、心に残った三つの便りをお届けします。
百年の祭り、全作品が金賞
夏の終わり、旭町では百年以上続く「野菜仕掛け物祭り」が開かれました。住民の皆さんが野菜を持ち寄り、知恵と手間を惜しまず、世相や身近な出来事をユーモラスに形にして町を彩る。まさに、暮らしの中から生まれた芸術であります。
今年は、宮沢賢治生誕百三十年にちなみ、ナスやレンコンで「銀河鉄道の夜」の蒸気機関車を再現した作品が目についたと日日新聞は。野菜で精巧につくられた、くまモンも愛嬌たっぷりだったそうです。
しかし、この祭りは今年をもって休止となります。畑は住宅地に変わり、野菜を育てる家庭も減りました。高齢化も進み、時代は確かに変わります。それでも、最後の年は品評会をやめ、出品作をすべて金賞としたと聞きました。順位をつけるより、皆でつくり、皆で楽しんだ時間を讃えようということでしょう。何とも温かい幕引きであります。
新しい賑わい、新しい誇り
一方で、石巻には新しい芽も育っています。石巻商工会議所の第20回石巻大賞には、「石巻モーニング・ブースト祭り実行委員会」と「フィッシャーマン・ジャパン」が選ばれました。
旧北上川沿いで朝から人を集め、石巻ならではの食と遊びを楽しませるモーニング・ブースト祭り。人が集い、笑い、町に新しい楽しみをつくる活動です。
フィッシャーマン・ジャパンは、「かっこいい、稼げる、革新的」という新しい三Kを掲げ、水産業の担い手を育て、漁業の魅力を内外に発信しています。仕事に誇りを持つ人が増えれば、地域は必ず元気になる。石巻の海には、若い志と先人の知恵が交わる力強さがあります。
海苔づくりに託す秋
そして、渡波地区では海苔養殖の種付けが始まりました。大きな水車に網を巻き、カキ殻に付いた海苔の胞子を網へ移していく。秋の海で、漁師たちは冬から春の実りを見据えて黙々と働きます。
震災前の水準にはなお届かず、海水温の上昇にも苦しめられてきました。それでも石巻の人は、海を諦めません。今年こそ、良い海苔を届けたい。その一念で、また網を海へ出すのです。
続けられなくなったものには、感謝を込めて区切りをつける。新しい楽しみは、皆で育てる。そして、ふるさとの誇りである海の仕事は、さらに磨き上げる。
これが、震災から十五年を経た石巻の姿ではないでしょうか。変わることを恐れず、変えてはならぬ心を守る。そんな石巻の秋の便りに、私は静かな勇気をいただきました。Goto


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