米寿の冒険野郎

老いるのではない、輝くのだ。

八十八歳、米寿を迎えた冒険野郎がいる。海洋冒険家・堀江謙一さんである。

堀江さんは来年三月、米サンフランシスコをヨットで発ち、紀伊水道まで三たび風の力だけを動力に日本を目指す単独無寄港太平洋横断に挑むという。成功すれば、八十三歳だった二〇二二年に打ち立てた世界最高齢記録を、自ら塗り替える。

堀江さんは一九六二年、二十三歳で世界初の単独無寄港太平洋横断を成し遂げた。小さな「マーメイド号」で西宮からサンフランシスコへ渡った快挙は、石原裕次郎さん主演の映画『太平洋ひとりぼっち』にもなった。我々の世代は、劇場で胸を躍らせ、大海原の向こうにある夢を共有したものだ。

それから六十四年。今度は米寿の身で、再び約八千五百キロの海へ出る。「挑戦したい」という心の火を、齢が消さなかったのである。凄いではないか。

山には三浦雄一郎さんがいた。七十歳、七十五歳、そして八十歳で三度、世界最高峰エベレストに立った。二〇一三年、八十歳での登頂は当時の世界最高齢記録であった。海の堀江さん、山の三浦さん。まさに日本の冒険野郎の双璧である。

日本は六十五歳以上が人口の二九・四%を占める、世界に冠たる超高齢社会である。米国はおよそ一八%、ドイツでも二三%ほど。長寿は喜ばしい。しかし、ただ長く生きるだけでは、人生の値打ちは決まらない。

もちろん、誰もが太平洋を渡る必要も、ヒマラヤを登る必要もない。私も喜寿を過ぎ、早朝ウォーキング、ラジオ体操、新聞六紙、石巻日日新聞、良書と雑誌に触れることを日課にしている。老いに抗うとは、若さを装うことではない。今日より少しでも心身を磨き、社会とのつながりを失わず、明日への興味を持ち続けることだ。

人生は、棺桶に入るまで修養である。定年や年齢を、人生の幕引きにしてはならない。人は挑戦することで、自分自身に希望を与え、周りにも勇気を灯す。

堀江さんには、どうか万全の準備で、無事に帰ってきていただきたい。冒険は死に場所を求めることではない。生きて帰り、その姿で次の世代に希望を渡すことにこそ価値がある。

高齢者よ、老いさらばえるにはまだ早い。大きな挑戦でなくてよい。今日一日を上機嫌に生き、誰かの役に立ち、新しい一歩を踏み出そう。人生の航海は、まだ終わっていない。Goto

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