お蚕さま

養蚕の工業化はできるのか?

養蚕業は日本の工業化を支えてきました。
1872年、群馬県に冨岡製糸場が設立され、日本は生糸輸出で世界一に。
しかし、戦後になって基幹産業が重工業にシフト、その結果、繊維の生産は
相次いで海外に移転しました。

97年に6310戸あった養蚕農家は23年に146戸と98%減少・
繭生産量も2516トンから45トンに減少。養蚕業は壊滅状態となりました。
時代の趨勢とは申せ著しい衰退です。でも養蚕業で成り立ってきた群馬県では、今でも蚕をお蚕さまと畏敬の念を持って呼んでいます。

そんな養蚕業が伝統産業から健康産業へ脱皮つつあります。
九州大学には450系統もの蚕を保管する「蚕ライブラリー」があります。
養蚕業最盛期・文科省主導のプロジェクトによって全国から蚕が集められた
からです。

「カイコ博士」の異名を持つ九大昆虫ゲノム科学研究室の教授の知見で・・
スタートアップ企業が誕生。蚕に特定のタンパク質を発現させ、豚の飼料に
加えて病気の予防に関する実験をベトナムで始めました。

豚は生後6ヶ月ほどで出荷用に育つのだが、飼育中に豚サーコウイルスに感染することが多い。豚はこのウイルスにかかると食欲が低下、下痢によって体重が落ちます。死に至る場合も。

ちょっとややこしいのだが、無毒化したサーコウイルスの役割を持つタンパク質の遺伝子を蚕にしか感染しない「バキュロウイルス」の一種に挿入し、
蚕のサナギに接種する。接種されたサナギは死ぬが、4日ほどでタンパク質を
大量に発現する。

そのサナギを粉砕して添加物に加工。豚の飼料に混ぜたところ、サーコウイルスの症状が発生しなくなった。ワクチン成分のタンパク質が体内に入って免疫を作りウイルスの増殖を抑えることが可能になったからだと。まぁ、蚕からそんな成分を作り出す技術を開発する研究者には頭が下がりますが・・

豚の体重が10%ほど増える結果がでた。
豚の体重の増加は出荷価格に影響を与えます。
養豚農家の収入増につながります。

蚕からとった添加物を飼料に加えることで、コストが下がり、
厄介なウイルスを排除し、おまけに収入増につながる。
他にも蚕のタンパク質に目をつけた研究者たちが、様々な試みを続けています。

こんな蚕由来の商品が世界的に普及すれば・・
長年、養蚕業を支えてきた農家にとって、産業転換できることになります。
研究者たちにはぜひ、頑張って欲しいと願います。

問題はです。蚕には餌になる「桑の葉」が必要です。桑の木を育て、桑の葉を
提供できる農家があるかどうかです。ないですねぇ。お蚕さまそのものを飼育できるがどうかの状況です。養蚕の工業化が必要なのかも知れませんね。Goto

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