高級魚、将来は水産資源として輸出も期待
私は海のない県で育った。そのせいか、今もなお海魚には特別な憧れがある。できれば生簀から揚がったばかりの、ぴちぴちした魚を味わいたいと思う。もっとも、搬送技術や保存技術が進歩した今では、岐阜の生協(スーパー)でも驚くほど新鮮な魚が手に入るようになった。隔世の感がある。
それでも、高級魚となると話は別だ。漁港から直に届かない距離の問題もあるが、正直に言えば値が張る。なかなか手が出ない。
ましてや「白身のトロ」と称される深海の高級魚、ノドグロ(アカムツ)となれば、刺身など夢のまた夢。私にとっては、塩焼きか煮付けでたまに出会う魚である。
そのノドグロを、近畿大学水産研究所が世界で初めて完全養殖に成功したというニュースに、思わず膝を打った。(近大マグロは有名だ)
完全養殖とは、人工孵化した稚魚を親魚まで育て、その親から再び卵を得て次世代につなぐ方法だ。天然資源に負荷をかけない。四方を海に囲まれた水産国・日本だからこそ挑むべき研究であり、誇るべき技術である。
だが、道のりは平坦ではなかった。卵の確保がまず難関だ。ノドグロは水深100メートルを超える深海に棲む。引き上げれば弱る。生態も十分に解明されていない。良質な卵が得られる海域や時間帯を探り、船上ですぐ採卵する工夫も重ねたという。
2015年、富山県射水市の実験場で研究が始まり、16年には人工孵化に成功。その後も水槽内の酸素濃度の調整など改良を重ねた。能登半島地震による停電という試練も乗り越え、ついに2025年、飼育下で育った6匹の親魚から約36万粒を採卵し、完全養殖を成し遂げた。
諦めない姿勢に、ただただ敬意を表したい。
これは水産研究に限った話ではない。我々の仕事も同じだ。少し壁にぶつかると、妥協したり、引き返したりする。その弱さを、この研究者たちの背中は静かに戒めてくれる。
しかも近大は言う。「1匹1万、2万円の富裕層の魚にはしない」。3年後には安定供給を目指すという。食卓に並ぶまでには時間がかかるだろう。それでも、海無し県で暮らす私たちにとって、これは確かな光明だ。
近畿大学水産研究所の快挙に心からの敬意を。そして、国の研究機関を含め、日本の水産資源研究がさらに前へ進むことを期待したい。海の恵みを、未来へ、そして全国へ、貿易の柱として世界へ。夢が広がる。Goto


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