夏痩せと「痩せましたね」

「奇跡の減量薬」フィーバー日本でも?

「夏痩せ」という言葉があります。暑さで食欲が落ち、発汗によって水分や塩分を失い、体重が減ることです。高温多湿のなかでは、体温を一定に保つだけでも身体は疲れます。

そこへ冷たい物の取り過ぎや睡眠不足が重なり、胃腸の働きが鈍る。つまり夏痩せは、健康的に脂肪が減ったというより、脱水や栄養不足を伴う「夏負け」の一つ。昔から夏の季語として使われてきたのも、日本の蒸し暑さが身体を消耗させてきたからでしょう。

私には禁句があります。

「暑い、寒い」と言わない。自分ではどうにもならない天候に、心まで負けてしまうからです。「痛い」とも、むやみに口にしない。口に出したところで痛みが消えるわけではない。自分で対処するか、必要なら医師に診てもらえばよい。ただし、痛みは身体が発する警報です。痩せ我慢をして病気の兆候まで見逃してはならない。沈黙は美徳でも、放置は美徳ではありません。

そして最近、私の辞書から消そうと思っている言葉がある。

「痩せた」「太った」です。

久しぶりに会った人へ、「お痩せになりましたね」「少し太られましたか」と、挨拶代わりに口走る。よく考えれば、病気や薬、加齢、心労など、本人にしか分からない事情がある。外見を値踏みするような言葉は、軽いうえに、何の意味もない。肉体的な話を御法度にするのも、人への礼儀でしょう。

米国では、GLP―1受容体作動薬が「奇跡の減量薬」ともてはやされています。GLP―1は腸から分泌され、インスリンの分泌を促すとともに、食欲を抑え、胃の内容物が移動する速度を遅らせるホルモンです。

糖尿病治療薬から肥満症治療へ用途が広がり、週一回の注射で大幅な体重減少が報告されました。一方、吐き気、下痢、便秘などの副作用もあり、食事療法や運動療法と併用する医薬品です。

日本でも肥満症治療薬として保険が適用されますが、単なる美容目的ではありません。合併症やBMI、食事・運動療法の経過、処方できる医療機関などに厳しい条件があり、厚労省も「痩身・ダイエット目的に投与してはならない」と明記しています。果たして収まりますかねぇ。

肥満をすべて「本人の意志の弱さ」で片づけるのも乱暴です。しかし、薬さえ打てばよいと考えるのも危うい。人間学的に申せば、身体は批評するものではなく、いたわり、律し、預かるものです。

「痩せましたね」ではなく、「お元気そうですね」。その一言のほうが、よほど温かく、人格のある挨拶ではないでしょうか。Goto

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