高市首相、片山財務相にやらせてみなさいよ。
「政治とは、税金の使い道を決めることである」立命館アジア太平洋大学の学長も務めた出口治明氏は、著書『「教える」ということ』で、政治の本質をこう簡潔に説いています。
まさにその通りです。予算は、単なる数字の積み上げではない。国がどこを目指し、どんな未来をつくろうとしているのか。その国家像を金額で示すものです。政策に優先順位をつけ、国民から預かった税金を無駄なく、効果的に使う。それが政府の役割であり、政治の責任です。
例年のことですが、2027年度予算の概算要求が出揃いました。
概算要求とは、翌年度に実施したい政策や事業について、各省庁が必要と見込む金額を見積もり、財務省に提出することです。いわば「わが省は来年度、これをやりたい。そのためにこれだけ必要です」という要望書です。これを財務省が査定し、政府内で調整して予算案をつくり、年末に閣議決定。その後、国会の審議と議決を経て、初めて国の予算になります。
ですから、概算要求額は確定した歳出額ではありません。
新聞各紙は一斉に警鐘を鳴らしました。朝日新聞は「膨らむ概算要求 野放図正す道筋見えぬ」、日本経済新聞は選別と財源確保を求め、読売新聞も必要な事業を徹底して絞り込むよう主張しています。
無理もありません。一般会計の要求総額は約143兆円。過去最大です。しかも、現時点で金額を明示しない「事項要求」もあり、最終的にはさらに膨らむ可能性があります。金利上昇によって国債費も増える。財政規律が緩めば、国債市場の信認を損ない、金利や円相場、ひいては国民生活に跳ね返る。新聞が心配するのも、さもありなんです。
しかし、金額だけを見て驚くのは、ちと早計ではないでしょうか。
要求総額が膨らんだのは、高市政権が「責任ある積極財政」を掲げ、従来の予算編成を抜本的に見直したからです。危機管理投資や成長投資を対象とする「強く豊かな日本」投資枠を新設し、従来型の要求上限、いわゆるシーリングを外した。各省庁が「それならば」と、先送りしてきた政策や、新たに挑戦したい事業を目一杯要求した結果です。
昨年度より20兆円ほど多いとはいえ、上限を外して各省庁に知恵を出させた結果がこの程度なら、私はむしろ、もっと大胆な国家構想があってもよいのではないかとさえ思います。
もちろん、要求したから全部認めよという話ではありません。古い事業に看板を掛け替えただけではないか。「強く豊かな日本」の名の下に、効果の乏しい補助金や業界保護策が紛れ込んでいないか。そこは徹底的に吟味すべきです。
しかし、少子高齢化に伴う社会保障費、頻発する自然災害への備え、AI・半導体、エネルギー安全保障、農業、教育、地方再生など、日本には待ったなしの課題が山積しています。新しい分野への投資まで「財政膨張」の一言で否定するなら、新聞こそが古い予算の殻から抜け出せない元凶になりかねません。
二つ、申し上げたい。
一つは、高市首相が大型補正予算への依存から脱却し、恒常的な政策は当初予算に計上する方針を明確にしていることです。特別な事態でもないのに、毎年のように大型補正を組む。これでは予算の全体像が見えにくく、国会の監視も甘くなります。
当初予算を厚くして補正を抑えるなら、昨年度の当初予算だけと比べて「野放図に膨らんだ」と批判するのは公平ではない。前年度の当初予算と補正予算を合算し、年間を通じた歳出総額で比較すべきです。
政府の説明によれば、2025年度補正予算と2026年度当初予算の合計は約140兆6千億円。今回の約143兆円は、それを2兆~3兆円上回る規模です。見え方は随分違います。
もう一つは、防衛費です。防衛省の要求額は約8兆9千億円。在日米軍再編関係費などを加えれば9兆円を超え、過去最大となります。
中国、北朝鮮、ロシアという核保有国に囲まれ、ウクライナ戦争も終結が見通せない。国民の生命と領土を守ることは、国家の第一義的責任です。もしシーリングを外した真の狙いの一つが、必要な防衛力を確保することにあったのなら、高市首相はなかなかしたたかだと言わねばなりません。
人間学的に申せば、責任とは「失敗しないこと」ではありません。自ら決断し、その結果を引き受ける覚悟です。何もしなければ失敗もしない。しかし、衰退が明らかなときに現状を守り続けることは、最も無責任な選択です。
積極財政にも節度が要る。借金を増やし、後世にツケを回すだけなら「責任ある」とはいえません。投じた税金が成長を生み、雇用と所得を増やし、税収となって戻る道筋を示す必要があります。新規国債発行を抑え、事業の効果を検証し、成果の出ない政策は潔くやめる。その厳しさまで含めて「責任ある積極財政」です。
新聞各紙に敢えて申し上げたい。
高市首相も片山財務相も、様々なタガを外し、自分たちの思想と責任で予算を編成しようとしている。長年、政治に関わりながら抱えてきた忸怩たる思いを、政策として形にする初めての予算です。
ならば、責任ある積極財政元年――やらせてみようじゃないですか。
「強く豊かな日本」への投資が掛け声に終わるのか。それとも、日本再生の一歩になるのか。最大の概算要求をどう絞り込み、財源をどう確保し、どんな未来図を国民に示すのか。厳しく、しかし少し長い目で見てみようではありませんか。
過去を引きずったままの税の使い方を続ければ、日本は間違いなく沈んでしまう。
やらせてみなさいよ。Goto


コメント