ウオッチドッグ

昔。昔と言っても、相当に昔。
岐阜市の北部でゴルフの練習場を親父殿が経営。
同時に、ゴルフジャーナルという、アマチュアゴルファー向けの月刊新聞を発行してた頃。
私は、早朝からボール拾いに始まり。その業界新聞作り。併設の軽食付きの喫茶店の調理係りなど。
.営業終了の11時まで、楽しく働いてました。社員は私一人。後はパート。35年以上前のことです。
ある日、経営者である親父殿が足に怪我した、真っ黒な子犬を、一匹拾ってきました。
親父殿は、もともと獣医。薬箱を取り寄せ、簡単に治療。
(本人に言わせれば、昭和17年の学徒出陣で出征。繰り上げ卒業。ろくに勉強もしなくて、免許をもらった。でも、経験豊富な名獣医だと嘯いていましたが)
ゴルフ練習場、夜は無人。物騒だから、番犬にするか。ということで、私が飼うことになりました。
名前をどうするか?どう見ても、飼い主と同じ、ただの雑種。
ゴルフにちなんで、「バーデイー」では、格好良す過ぎるし、「パー」では変だし。
かといって「アルバトロス」じゃ、アホウドリだし、「ダボ」じゃゴロが悪い。結局「ボギー」と命名。
これが、性格が穏やかといいますか。根性がないといいますか?
すぐに尻尾を振って、お客様の誰にでもなつく。とても、番犬役など、務まらないおちょうしもの。
丁度その頃、世の中、第一次のゴルフブーム。各地でゴルフ場開発が計画。
岐阜県下、いまでは70箇所を越えますが、当時は、10箇所ほど。
近在の開発計画で、保安林が大量に伐採され、大雨で農地に濁水が流れる事件が起こりました。
今ほど開発法が厳しくない時代。この事件は闇に葬られようとしていました。
ジャーナリストだった親父殿。この事件を耳にして、ゴルフジャーナルに掲載するか。となり、
にわか記者の私が取材。次の号一面に事件の全容を掲載。
それが、県議会で取り上げられ、工事は中止。原形に復す命令がでました。
ゴルフ愛好家のための、小さな新聞、そんな力があるとは、自分でも驚きでした。
その親父殿、役立たずの番犬「ボギー」の頭を撫でながら、
「いいか。忘れるなよ。新聞とは、社会のウオッチドッグなんだぞ。」と。
当時は情報に価値があるなどとは、いわない時代でしたが、
新聞情報の価値と使命の一旦、ジャーナリスの役割と心意気を学んだ思いでした。
その、愛犬「ボギー」。何処からか、♀のスピッツを連れてきて、
彼女に番犬役を肩代わりさせ、自分は彼女のウオッチドッグとして余生を過ごしまた。
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