文科省の意向、意図が背景にあるのでは。
東京大学で次期総長予定者が選ばれました。9月28日に教職員による意向投票が行われ、2回目の投票では、染谷隆夫教授が1,107票、藤垣裕子教授が553票を獲得しました。ところが、総長選考・監察会議が選んだのは藤垣教授でした。意向投票で最多の票を得た候補者とは異なる人が選ばれたことで、波紋が広がっています。
まず気になったのは、投票資格を持つ教職員2,583人のうち、2回目の投票数が2,169票だったことです。単純に差し引けば、414人が投票しなかったことになります。投票は自由ですから、投票しない自由もあります。しかし、大学の将来を担う総長を選ぶ場面で、なぜこれほどの人が投票しなかったのか。
私は、「自分たちの投票だけで総長が決まるわけではない」という意識も、その一因だったのではないかと思います。意向投票は、あくまで選考の参考とされる仕組みだからです。
国立大学の学長選考では、学内外の委員で構成される「学長選考、監察会議」が、候補者の所信や面接、意向投票の結果などを踏まえて総合的に判断します。
2014年の法改正に伴う文部科学省の通知も、意向投票を禁止してはいませんが、その結果をそのまま選考結果に反映させる方法は適切でないとの考えを示しています。したがって、最多得票者が選ばれなかったことだけをもって、直ちに制度に反すると決めつけることはできません。
今回の選考を考えるうえでは、東京大学を取り巻く厳しい状況も見ておく必要があります。東大は、世界トップレベルの研究大学を育てる国際卓越研究大学の認定を受けていません。
一方、東北大学や東京科学大学、京都大学などが認定され、大学ファンドによる長期的な支援を受ける道が開かれています。国際卓越研究大学として認定されることは、研究力を高め、世界で存在感を発揮するうえで大きな意味を持ちます。
そのさなかに、東京大学では医学部附属病院の医師による収賄事件や、工学系研究科と関係する法人での資金不正が明らかになりました。こうした不祥事は、大学のガバナンスと社会からの信頼を厳しく問うものです。
今回の総長選考が国際卓越研究大学の認定を意識して行われたと断定することはできません。しかし、研究力を伸ばすだけでなく、大学の組織運営を立て直し、社会の信頼を取り戻すことも、次期総長に託された重要な課題です。
意向投票は、教職員の意向を選考に反映させるためのものです。最終的に誰を総長に選ぶかは、あらかじめ定められた手続きに従って、総長選考・監察会議が判断する。その仕組みを承知したうえで投票が行われたのですから、最多得票者が選ばれなかったことだけを取り上げ、「民主主義が損なわれた」「大学の自治が侵された」と声高に叫ぶのは、制度の趣旨を見誤った議論ではないでしょうか。決められた選び方に従って出た結果に、都合のよいときだけ民主主義や大学の自治を持ち出す。それは筋の通った批判とは言えません。
また、藤垣教授が女性だから選ばれたのではないか、といった憶測を重ねる必要もありません。選ばれた以上、問われるべきは性別ではなく、総長として何を成し遂げるかです。大学の運営と経営、研究力の向上、不祥事を受けた組織の立て直し、そして社会や世界に向けた説明責任。藤垣教授がこれらの課題にどう向き合い、どのような結果を出すのかを見ていけばよいのです。
選考の結果に異論を唱える自由はあります。しかし、制度を踏まえずに民主主義や大学の自治を振りかざして選考そのものを否定したり、女性であることを理由に選出の正当性を疑ったりするのは、建設的な議論とは言えません。選ばれた以上、まずは新しい総長の手腕を見定める。東京大学に求められているのは、言葉の応酬ではなく、大学の信頼と研究力を取り戻すための確かな仕事です。Goto


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