春の女神

岐阜市には長良川の鵜飼以外にも素晴らしい観光資源がある。
岐阜市は山紫水明です。市の東部に司馬遼太郎が描いた「国盗り物語」の
舞台となった稲葉山城(現岐阜城)が聳える金華山がでんと構え、
四季折々の風情を醸し岐阜の象徴として市民に愛されている。
金華山の眼下には長良川が蛇行しながら、伊勢湾へと続く。
長良川上流にはダムもなく、奥美濃の山並みから滲みだす清流が滔々と流れる。
流域は世界農業遺産に登録されて、悠久の時代から川とともに人々が暮らす。
岐阜市民は長良川を母なる川と呼び、親しんでいる。山紫水明と言われる所以である。
その長良川で夏の風物詩として5月から10月中旬まで毎夜繰り広げられるのが「鵜飼」
12羽の鵜を操る鵜匠が、夜の帳が降りると鵜舟に篝火を焚き、
香魚といわれる「鮎」を追う「漁」を繰り返し川を下る。その様は1400年の歴史を刻む。
インバウンドが日本中を席巻する昨今、岐阜市には、金華山と長良川しかないのか、
他には観光資源はないのかと、訝る声がある。そんなことはない。
二つ紹介したい。一つは「大仏」である。大仏といえば奈良、東大寺と、
鎌倉の石大仏が有名だが、岐阜の大仏も一見の価値がある。
なんせ、竹で編み、経文を張り、漆を塗って作られた、張子の大仏だからである。
全長は15メートル。そのお顔は実に柔和で、思わず合掌したくなる。有り難い大仏である。
それともう一つある。「名和昆虫博物館」である。
岐阜公園の片隅にひっそりと立つ洋館は明治の建造物。
民間の昆虫博物館は非常に珍しい。岐阜公園の近くで育った私は、
夏休みの課題で昆虫の標本を作った。蝉やトンボなど取り立て珍しくもない、
虫を金華山で採り、名和昆虫博物館で標本の作り方を教わったモノである。
その名和昆虫博物館が年に一度だけ、世間の注目を集める季節がある。
「春の女神」といわれる蝶の中でも取分け「綺麗な」蝶、ギフチョウが羽化する。
博物館では「ここでギフチョウに親しみ、自然の奥深さを感じるきっかけに」と、
4月中旬まで観察することができる。
なぜ、名和昆虫博物館でギフチョウなのか。博物館を創館した初代館長、
明治16年の話だが、名和靖さんが岐阜県の郡上郡で採取したチョウの標本を
昆虫学会が、新種のチョウであると認定、「ギフチョウ」と任命されたからである。
その後、現在に至るまで、名和哲夫現館長は5代目、博物館はギフチョウのメッカとして、
チョウの研究が続けられている。この名和昆虫博物館を岐阜の観光資源と言わずして。
とは申せ、岐阜に暮らす私でさえ、この間、半世紀近く、昆虫博物館を訪ねていない。
これでは、観光資源もあったモノではない。
岐阜市で発行する地域みっちゃく生活情報誌「GiFUTO」で特集を組んで、
市民に再認識してもらおう。いや、その前に「春の女神」誕生の瞬間を
この目で見に行こう。(観察の問い合わせは058-263-0038)Goto

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