——来年の干支に寄せて——
師走に入り、街の空気がどこか躍動している。
来年の干支が「馬」だからだろうか。
馬は古来より、勢い・跳躍力・出世運の象徴。
飛騨の絵馬にも一位一刀彫にも、馬の彫り物が年の瀬の風物詩となる。
気品ある木目から、今にも駆け出しそうな生命力が伝わる。
日本人は昔から、干支に願いを託して新しい年を迎えてきた。
今年もまた、師走、その季節が巡ってきた。
私の部屋にも、馬が一頭いる。
山形県・天童、将棋の街の縁起物「左馬(ひだりうま)」の駒である。
「馬」を左右逆に書くと「舞(まい)」に通じ、
福が舞い込む、商売繁盛、万事うまくいくという吉祥文字。
お金が右から左へ「逃げない」の意もある。
もう何年前になるだろう。
40代新米経営者だった私を、いつも気遣い、叱咤激励してくれた先輩が「商売繁盛しろよ」と手渡してくれたものだ。
きっぷの良い方で、心遣いが実に細やかだった。
苦難にぶつかったときなど、そっと「左馬」眺めてみる。
すると不思議と心が静まり、また一歩踏み出せる。左馬というモノは、単なる縁起物ではない。人の背中を押す、不思議な力を持っている。
さて、「馬」と言えば、将棋にも馬がいる。第38期竜王戦、藤井聡太竜王が4連勝で5連覇、史上33人目の“永世竜王”の資格を手にした。永世称号は、現役を退いてから名乗る名誉の称号。23歳にして永世三冠を達成したのだから、末恐ろしい。
読売の解説によると、今回の対局で目を引いたのは“桂馬”の使い方だった。桂馬は唯一、他の駒を飛び越えることのできる駒。左右どちらかへひょいと跳ねる、不思議な動き。(考えた人って凄くないか)藤井竜王が放った予想外の桂馬の一手に挑戦者は困惑し、一気に勝負が傾いたという。
来年は馬年。
将棋の桂馬のように、日本も跳ねてほしいものだ。もし藤井竜王がそこまで計算していたら…それこそ超人的である。
馬と言えば、大相撲でも九州場所で“馬跳び”が見られた。若隆景が安青錦を、まるで桂馬のようにひょいと飛び越えて勝った。若元春は横綱・豊昇龍を、立会い一瞬の“跳び”で倒した。両力士(兄弟だが)とも、まさに干支を先取りしたような躍動感だった。
さらにTBSの日曜劇場『ロイヤルファミリー』。
血統に恵まれぬ“暴れ馬”が代を重ねて有馬記念を制するという夢を追う物語だ。
三國連太郎の息子、佐藤浩市の味わい深い馬面(失礼)も抜群。
サラブレッドが駆ける姿は、観る者の胸を熱くする。
人はやはり、躍動するものに心を奪われるのだ。
こうして振り返ると、
将棋も、相撲も、ドラマも、
そして私の部屋に鎮座する左馬の駒も、すべて“跳ねる”“駆ける”“躍動する”という共通項でつながっている。
師走である。
慌ただしい季節だからこそ、
来年の干支「馬年」に希望を託したい。絵馬、一刀彫の馬のように堂々と、桂馬のように予想外に跳ね、若隆景のように一気に攻め、そして暴れ馬のように突き抜ける一年を描いて新年を迎えたいモノだ。
2026年——
日本も、我が社も、そして私自身も、来年は馬以上に躍動・跳ねる年になればと願う。Goto


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