海の幸と畏敬の心

ズワイガニとスルメイカの漁獲量が増えています。

あなたは肉派か、それとも魚派か。こう問われれば、高齢者で肉派の方はおおむね元気、魚派はどこか静かだと、私の経験則ではそうなる。

ゆえに「肉派」と胸を張りたいところだが、山海の珍味に恵まれた日本では、どちらとも言い難い。敢えて言えば、冬の海の幸は神の恵み、夏のすき焼きは人生を祝うご馳走。結局、両方にありがたさがある。

さて、冬の海の幸の主役──
ズワイガニ漁が解禁された。
今年の資源量は、調査開始の1999年以来で最多。安定供給に期待が高まる。私はカニは大好きだが、正直、食べるのが面倒で敬遠していた。

しかし「それは時間が経っているカニだから」と教わった。水揚げ直後の産地で食べれば、殻離れの良さに驚く。ゆえに岐阜の人間は北陸へ向かうのである。

昨年は値下がりも顕著だった。兵庫・鳥取の「松葉ガニ」は2割安、福井の「越前ガニ」は12%安。石川の「加能ガニ」に至っては、地震で宿が減り3割安。
今冬も漁獲枠は高水準、大幅高騰はなさそうだ。つまり、今年はズワイガニが口に入る確率が高い。

だが、水産研究者は「来冬からカニは長い少子化時代に入る」と警鐘を鳴らす。

大きなカニはいるが、27年以降の漁獲対象となる“若手”がいない。暖水の勢力が弱まり、幼生が生息域に届かなかったからだ。このままでは28年に資源量は過去最低となり、10年ほど厳しい状況が続くという。であれば、今年が“最盛期”。肉派であれ魚派であれ、ありがたく頂かねばならぬ。

魚の話をもう一つ。
「どんな魚が好きか」と問われれば、私は即座に「スルメイカ」と答える。活き造り、一夜干し、天ぷら、フライ、裂きイカ──万能である。しかし深刻な不漁が続いてきた。

ところが今年は漁獲が急増、小型イカ釣り船の漁獲枠を超え、史上初の“取り過ぎるな”命令。長年の不漁で苦しんだ漁師が水産庁に押しかけたという。

資源を守りたい行政、稼ぎを取り戻したい漁師、物価高でイカを求める加工業者。たかがイカ、されどイカ漁である。折り合いをつけるのが政治家の務めであり、その資質が試されている。

思うのだ。
私たちはあまりに「食」を当たり前と思い過ぎてはいないか。
肉派か魚派かと笑っていられるのも、海も山も、黙って恵みを差し出してくれるからだ。

古来、日本人は食に“命”を見た。
田の神、山の神、海の神に感謝し、いただく前には「いただきます」と手を合わせた。この所作は宗教ではなく“命の連鎖への畏敬”そのものだ。

食材は商品である前に、天地自然の恵みであり、多くの人の労苦の結晶である。

しかし今、日本は飽食国家。
食品ロスは天文学的数字に達し、本来あるべき“畏れ”が失われつつある。

肉派であれ魚派であれ──
今年のカニ一杯、スルメイカ一切れを通して、私たちはもう一度、
「命をいただくとは何か」
を胸に刻みたい。

食べられる幸せに、深く感謝をしたい。Goto

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