悪魔の質問

生成AIと、昭和企業戦士の“滋味の秋”逃げたらあかん。

若い人にとっては食欲の秋。我々高齢者にとっては、しみじみと味わう“滋味の秋”であろう。齢を重ねると、季節の移ろいも人生の滋味も、じっくり噛み締めたくなる。だからこそ、今秋は「生成AI」という文明の新しい味を語りたい。

少々お恥ずかしい私事だが、昭和生まれの企業戦士というのは、働いて働いて働く――それが人生だった。「24時間働けますか」の時代を全力疾走してきた世代である。阿部サダヲ主演のドラマ『不適切にもほどがある』を見れば、思わず膝を打つ。なるほど、あの頃はそうだった、と。

近頃は何でもかんでも人権、人権と窮屈な気もするが、文明は隔世すると言う。IT革命には正直ついていけなかった。しかし不思議なことに、AI時代にはしっくり来る。自分の症状を正確に伝えれば、病名も治療法も即座に示してくれる。法律も同じ。法的判断を尋ねれば瞬時に回答が出る。専門家はAIの限界を論じるが、私は思う。問いが曖昧なら答えも曖昧。正確に尋ねれば、実に的確な答えが返ってくる。それだけの話だ。

そして、AIのありがたみを最も感じたのは、なんと“家庭の食卓”である。コロナ禍で外食が封じられ、毎晩家で夕食。困ったのは家人だ。「今日も家で食べるの?」「何が食べたい?」と聞かれ、「なんでもいいよ」などと言おうものなら朝から不機嫌。綾小路きみまろならずとも、料理を考えるストレスは相当なものらしい。

その悩みを救ったのがAI君である。キューピーは対話型レシピ提案を無料で提供し、3〜4千のレシピから“晩御飯の正解”を10品提示してくれる。味の素の「未来献立」は1万2千のレシピから栄養バランスまで考え、胃に優しい翌日メニューまで提案してくれる。企業の商魂はさすがだが、使う側は助かるばかりだ。

つまり、「何食べたい?」という悪魔の質問に、AI君が代わりに答えてくれる時代なのだ。面倒なことは任せてしまえばいい。高齢者こそAIを使い倒し、余生を趣味と実利の世界で楽しめばよい。ITが苦手だと逃げれば、残された人生の時間まで小さくなる。

文明から逃げたらあかん。
むしろ新しい文明を我がものとする――それこそ、令和時代を生きる高齢者の心意気ではなかろうか。滋味の秋に、AIという“未来の味”を、ぜひとも噛みしめたい。Goto

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