土地の味  松山その2

マルクスが、レーニンが、喧々諤々
昨日、何事も無かった訳ではないが、木曜日の松山出張の続編。
道後温泉行きの路面電車が、左に大きく曲がり、「次は東警察署前です。お降りの方は、ボタンを押して下さい」との社内アナウンス(女性の声ですが?テープの案内は無味乾燥って感じで、味わいがないね)そこで、見た車窓からの、「ほろ苦い思いと懐かしい味」の看板。
もう、四十年程前になりますか?松山の労働会館で、この地の「同志」?と、マルクスだレーニンだ、反帝だ反スタだ、資本だ労働だと、喧々諤々。夜を徹しての議論。「東京の学生なんてどうしょうもない」と散々だった日。
腹が減った。兎に角、腹が減った。と嘆いていた、その時、松山の「同志」が、ほい「これ喰え」と差し出してくれたのが、パンでもないし、餅でも饅頭でもない。ふっくらした楕円で、飾り気のない蒸したパン。ほう張ると、幾つか「大豆」が入っていて、何ともいえぬ甘みがある。「美味かった」、下手な議論など何処へやら、パクパクと3個、4個。その忘れてはいないが、思い出せなかった味。
そうだ、松山。あの味。「労研饅頭」(ろうけんまんとう)。あの当時、金もなく、ろくに喰うことも出来なかった時代、世直しするぞと、労働運動、学生運動に熱くなってた連中の空腹を満たしたのが、「労研饅頭」の看板。
役得の「温泉」帰り、午後の会議にまだ時間に余裕。路面電車「東警察署前」で下車。労研饅頭屋を訪ねた。昭和30年代を思わせる簡易な店の佇まい。硝子のケースに、14種類の饅頭。パンに味が付く、うずら豆、黒大豆、ヨモギ、ココア、レーズン、バター、チーズ入りと、あん入り、つぶあん、こしあん、よもぎつぶあん、よもぎこしあん、しろあん、かぼちゃあん、いもあん、とある。
「随分種類が多いが、三十六、七年前からあるのは何れ?」「元祖は黒大豆だよ」と松山美人?のお母さん。「では、それを一個下さい。今ここで食べます」店には小さなベンチ、そこに腰掛け、お茶を頂き、「ウーン。この味、この味。」この素朴な味わい。他のも試してみたい。「お母さん、全種類一個ずつ、下さい。「お代は幾らですか。」「1320円です。」これは良い土産が出来た。
労研饅頭は昭和の始め、中国の饅頭(まんとう)を日本人向けに改良して作ったのが始まり、松山では「夜学生に学資を」と松山夜学校奨励会で製造、各学校の売店で販売していた。その当時から受け継がれて来た酵母菌を使い、甘みを押さえた素朴な味が自慢の手作り「まんとう」です。(製造元、株式会社「たけうち」のしおりから・松山市勝山町)
何処の街にも、名産、物産がある。松山には、みかんを始め山海の珍味が多い。それはそれで、嬉しい。しかし、松山の片隅で昭和初期から蒸される一個88円の「労研饅頭」の味も、私にとっては名産に代え難い「その土地の味」です。
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