福岡に海水から真水日量5万㎥を供給するプラントがある。
台風が近づいている。六月。梅雨の季節である。空は曇り、川は満ち、田には水が張られる。にもかかわらず、六月の異称は「水無月」。何とも不思議な名である。風流な昔人が、洒落で付けたのかと思えば、そうでもない。旧暦六月は現在の七月頃。夏の暑さで水が涸れ始める季節にあたる。「水の無い月」への警戒感から生まれたとも言われる。
また、田植えを終え「皆仕月(みなしつき)」、つまり皆が働き終えた月との説もある。あるいは、田に水を張る「水張月」が転じたとも。歳時記とは面白い。現実を写しながら、どこか現実を超えた情緒を宿している。しかし近年、この「水無月」が妙に現実味を帯びてきた。
六月を前に、気象庁の防災気象情報が大幅に刷新された。「注意報」「警報」の上に、「レベル4大雨危険警報」、さらに最上級として「レベル5大雨特別警報」が位置付けられた。近頃の天気予報は、観測史上初、過去最大級、経験したことのない――と、最上級の言葉が飛び交う。もちろん人命を守るためだ。だが、どこか“驚かせて注意を促す”空気も漂う。
とはいえ、実際に列島は異常気象の時代に入った。線状降水帯が居座り、山が崩れ、川が氾濫する。かと思えば、今度は水不足に苦しむ。まるで自然が極端へ極端へと振れているかのようだ。
「水の国ニッポン」と呼ばれてきた日本ですら、令和の水騒動に直面している。
愛知県の宇連ダム。東三河の農業、水道、工業を支える豊川用水の重要な水瓶である。トヨタ自動車をはじめ多くの工場へ工業用水を送り続けてきた。しかし近年、たびたび渇水に見舞われる。大雨特別警報の裏側で、「渇水特別警報」が必要な時代になったのである。
さらに福岡県では、昨年秋以降の少雨で筑後川水系のダム貯水率が激減した。福岡市では、海水から真水を生み出す海水淡水化センター「まみずピア」が稼働している。日量五万立方メートル、約二十五万人分の水を生み出し、市民生活を支えているという。かつては夢物語だった技術が、今や現実の命綱になっている。
水資源機構の幹部は、六月の梅雨を「干天の慈雨」と呼んだ。実に味わい深い言葉である。鬱陶しい雨も、降らねば人は生きられぬ。まさに“水無月”の本質を射抜いている。
天を恨んでも仕方あるまい。
豪雨も渇水も、自然が相手である。人間は自然を支配しているようで、実のところ、ただ自然の懐に生かされているに過ぎぬ。だからこそ、畏れを忘れてはならない。受け入れ、備え、知恵を絞ることである。
六月。雨の季節が始まった。紫陽花は濡れ、田は潤い、蛙が鳴く。その一方で、列島は水との格闘を深めてゆく。歳時記の美しさの裏には、自然と向き合い続けてきた日本人の歴史がある。水無月――。その古びた名は、令和の今こそ、重く胸に響くのである。Goto


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