梅干し一粒、難逃れ

どなたも信じられないでしょうが、
私の趣味は、食後の後片付けです。

もちろん、昔からではありません。社会人になってこの方、自宅で夕食を取ることなど、ほとんどなかったのですから。皿洗いを始めたのは、コロナ禍で外食ができなくなってから。趣味というのは、いささか大袈裟ですね。いかん、いかん。何でも誇大に表現したくなる。悪い広告人の性です。

我が家の台所。築三十数年、あちらこちら傷んでいますが、ステンレスの流し台は今なお健在。その片隅に、梅干しの入った甕が鎮座しています。多少、酒が進んだ夜(かなりです)など、洗い物を楽しみながら甕から一粒取り出し、口に放り込む。

酸っぱいのなんのって。
身体がブルブルッと震えるほどです。口の中が引き締まり、酔いも覚めて、気分までピリッとする。私は勝手に「この梅干しのおかげで二日酔いにならない」と信じています。医学的な根拠はありませんが、信じる者は救われる、です。

この梅干しは、千葉の先輩が贈ってくれたもの。
長い間、甕の中でじっくり時を重ねた、昔ながらの逸品です。

梅は中国原産とされ、日本には奈良時代以前に伝わりました。当初は薬用として珍重され、平安時代中期には梅の塩漬けが「梅干し」として文献に登場します。戦国時代には、武士が戦場へ携える保存食でもありました。喉の渇きを和らげ、傷みやすい食べ物を守り、疲れた身体を奮い立たせる。まさに先人の知恵が生んだ日本の伝統食です。

完熟した梅を塩に漬け、赤紫蘇を加え、梅雨明けの太陽の下で「三日三晩の土用干し」。それから甕の中で時を待つ。時間を掛けるほど、尖った塩味と酸味がなじみ、深い味わいになる。人間も梅干しも、熟成には時間が必要なのでしょう。

梅干しに含まれるクエン酸は、食欲を促し、エネルギー代謝やミネラルの吸収を助けるといわれます。ただし塩分は高い。身体に良いからと食べ過ぎては、元も子もありません。一日一粒。それが程よい付き合い方です。

「梅はその日の難逃れ」と申します。朝に梅干しを食べれば、その日の災難を免れるという教えです。私にとっては、二日酔いからの難逃れですが。

盆休みが終わり、それぞれが職場へ復帰した。秋風が頬を優しく撫で始めても、残暑はまだ厳しい。夏の疲れがどっと出る頃です。どうぞ梅干しを一粒。口も身体も心も、ピリッと引き締まります。

友から届いた梅干しを摘みながら、今日も元気に動き回れることに感謝する。
「梅干しは一日一粒で医者いらず」小さな一粒ですが、そこには日本人の知恵と、太陽と、長い歳月、そして友の心まで漬け込まれているのです。Goto

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