背景に政権存続が見え隠れするようでは、可処分所得は伸びない。
政治の力がどの程度なのか。岸田首相は1月の施政方針演説で「2024年に物価を上回る所得を実現する」と公約、春闘真っ只、その実現が問われている。春闘では労使交渉での満額妥結が次々報じられている。明るいニュースだ。
背景には政労使会議がある。経団連の会長、連合の会長らが参加。首相の「賃上げの流れを継続できるよう、あらゆる手を尽くす」との強い決意が滲む。
本来的には、経済活動は自由でなければならない。労使交渉に政治が介入するのは問題である。しかし、介入せねばならないほどに賃上げされない時期が続いた。
その結果がデフレであり失われた30年である。その責任を問うても仕方がないのだが、経営者の側に立つ自民党が、経営側に賃上げを迫ることはなかったのだが、14年春闘で安倍元首相が経団連に賃上げを要請した。それが「官製春闘」である。労働側の怠慢だとの声が上がったのもその時である。
経済は政治より強いのではないかと、その時に思った。結果は政治が賃上げに介入する流れが続き、具体的には平均上げ幅が3%の水準まで言及した年もあった。でも、なかなか政治の力では賃上げが進まなかったのが現状である。
今ここにきて、岸田政権が「3%超」といった目標を要求、賃上げ税制を拡充するなど政治ならでは手を打ってきたことが功を奏している。もちろん、円安による輸出企業の利益が大幅にアップしていることも好循環になっている。政治の力だとは思えないが、春闘が労働側の予想を超えて要求が実現するのは喜ばしい。
となると次は中小企業への波及である。官製春闘的にはどうするのか。公正取引委員会の役割が大きい。23年11月に受注企業が発注元との取引で受け取る対価について価格転嫁を促すための指針を公表した。国内1873社の業界団体に徹底を求めた。これは官製春闘の大きな成果だ。実際には日産自動車の下請けイジメ、下請法違反で再発防止を勧告するなど取り締りを強化している。
さらには労務費転嫁に関する特別調査にも入り、価格転嫁への取り組みが不十分な企業は独占禁止法に従って事業者名を公表する。また、賃上げの原資になる公定価格も引き上げた。24年度診療報酬改定で医療機関の初診料を30円増額する。公共事業での労務費の指標となる労務単価や運送業の標準的運賃なども相次ぎ増やしている。
中小企業が賃上げの原資を確保するための取引環境の整備をしたり、関与の度合いを深めているのも「官製春闘」の一環であることは意外に知られていない。中小企業の賃上げがなかなか進まないとは盛んに言われるが、物事には順番がある。ここで政治が手を抜かなければ、中小企業の賃上げも可能だろう。手を抜かなければである。
問題は、この官製春闘が岸田政権の維持のためにあることである。自らの政権を維持するために、春闘を政治的に利用しているのではないか。そんな疑問である。この賃上げのムードは物価上昇によって、賃上げせねば、国民の生活が破綻する状況にあるからである。その背景をうまく利用して官製春闘だと誇示しているのではないかと、国民は見抜いていることにある。
国民が岸田政権を支持するには、もう一段のギアアップがなければ信用できない。まやかしの官製春闘ではなく、賃上げが実施できない中小企業は淘汰する。そんな覚悟がいるのではないか。そこまで腹を括れば物価上昇率を上回る可処分所得になる。Goto
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