児童相談所は子どもの命を守る最前線である。
読売巨人軍、前監督・阿部氏の「長女虐待事件」である。逮捕、未明の釈放、監督辞任、そして謝罪会見。長女の手紙まで公表され、経緯説明に追われた。天下のジャイアンツ、その監督ともなれば、世間の注目度は桁違いだ。テレビも新聞も、SNSも、連日この話題で持ち切りとなった。
だが、私はここを整理したい。
この事件は、野球とは何の関係もない。家庭内で起きた児童虐待案件である。娘が父親から暴力を受けたと訴え、児童相談所へ通報した。児相は「子どもの命を守る」ことを最優先に動き、警察へ連絡。警察が自宅へ踏み込み、暴行容疑で父親を逮捕した。法律に基づいた対応である。
児童虐待防止法とは何か。
正式名称は「児童虐待の防止等に関する法律」。2000年に議員立法で成立した。背景には、幼い命が親の虐待によって奪われる悲劇が相次いだからだ。殴る、蹴るだけではない。食事を与えないネグレクト、暴言による心理的虐待、性的虐待。密室の家庭の中で、子どもが泣き叫び、誰にも助けを求められずに命を落としていった。
その度に国民は怒り、涙した。
「なぜ救えなかったのか」
「もっと早く介入できなかったのか」
その反省の積み重ねが、今日の制度を作った。
法律は何度も改正された。
虐待の定義拡大、児相の権限強化、警察との連携、学校や医療機関との情報共有。親権を盾にした「家庭の問題だから口を出すな」という時代は終わったのである。
児童相談所の役割は重い。
虐待の疑いがあれば、48時間以内に子どもの安全確認を行う。必要と判断すれば、一時保護もできる。警察への通報も行う。つまり児相は、子どもの命を守る最前線なのだ。
189番。
「いちはやく」。
虐待かもしれないと思ったら、ためらわず電話して欲しい。匿名でもよい。通報によって救われる命がある。
警察庁によれば、児童相談所からの通報を端緒とする児童虐待事件の検挙数は増加傾向にある。2025年は2592件、そのうち児相経由が1131件と過去最多。2022年750件、23年894件、24年1047件と増え続けている。これは虐待が増えた面もあるだろう。しかし一方では、「見逃さなくなった」という社会の変化でもある。それでもなお、日本では毎年50人を超える子どもたちが、親などからの虐待で命を落としている。断じて許されぬことである。
我が社は、毎月1200万部を超える『地域みっちゃく生活情報誌』を全国の家庭へ届けている。その誌面で、児童虐待防止を10年以上訴え続けてきた。
悩みがあれば189へ。
虐待を見たら189へ。
児相を窓口に、行政、学校、医師、警察、法律家が知恵を出し合い、家庭を支える仕組みがあることを伝えてきた。
さらに我が社では、児童虐待防止を訴える歌を制作し、全国の学校の昼休みに流す活動も続けている。子ども自身に、「一人で抱え込まなくていい」と伝えたいからだ。
阿部前監督の辞任には、深い意味がある。
「暴力は許されない」という社会の意思表示である。
もちろん、家族にとっては想像を絶する苦しみだろう。姉妹喧嘩が発端だったとも報じられる。家族は、ここまで大きな問題になるとは思わなかったかもしれない。高校生の娘さんの心の傷も深いだろう。
だからこそ、SNSでの誹謗中傷は断じて許されない。正義を振りかざし、他人を叩き潰すことは、虐待防止とはまったく別物である。
本当に向けるべきエネルギーは、この国から児童虐待をなくすことだ。
今回の事件によって、児童虐待防止法の存在が広く認知され、児童相談所の役割が正しく理解されるならば、それは社会にとって意味のある教訓となる。
幼子の命を守る。
子どもの涙を見逃さない。
それは国家の責任であり、社会全体の責任である。
「家庭の問題」で済ませてはならない。二度と、虐待によって幼い命が失われぬ日本を築かねばならない。私は、その覚悟を改めて強くしたい。Goto


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