「不思議な研究者集団」の価値をメディアは評価すべきです。
国立情報学研究所の新井紀子教授が朝日新聞のメデイア私評に寄稿された
ふだんからの備え「不思議な研究者集団」を読んで、深く考えさせられました。
東北大学は「ウイルス感染症の権威である押谷仁教授や公衆衛生学を修めた
斎藤繭子准教授」を、北海道大学は「感染症の数理モデルのエースである西浦博教授ら」を
厚労省のクラスター対策班に送り出しています。
もちろん、その他大学からの優秀な研究者たちが送られ、専門家集団を形成しています。
なぜ、厚労省は「彼らを公表しないのか」。いや、メディアは頑張っている彼らを
紹介し「エール」を送らないのか。医療体制の崩壊を食い止める話は報道するのに。
門外漢の私にはさっぱりわからないのですが。
「数理モデル」って何でしょう。最近では天気予報や株価の変動などの分野で用いられます。
感染症の数理モデルの場合はウイルスの性質(潜伏期間・感染経路・重症化率)と
感染者の行動歴や感染者数の推移などから、待ち受ける未来を複数のシナリオで
予測することです。言われてみれば、天気予報が最近よく当たるのは
「数理モデル」を用いているからなのですね。
感染症の予測は未知の要素も多く、圧倒的に複雑だそうです。
だから、数理モデルが誤る可能性も否定できません。
彼らのモデリング成否で、日本の死者数も桁が変わるかもしれません。
それを重々承知の上で、彼らは迷いなくこの仕事を引き受けたのでしょう。(新井教授)
自らの専門性が社会に必要とあらばリスクを恐れず当然の務めとした、
その姿こそが「プロの研究者」と言えるのでしょう。
研究者・特に国立の大学や研究機関に属する研究者。よくよく考えると、
実に不思議な人々です。したい仕事ができるから、それがいかに過酷であっても、
それだけの理由で「安月給」に甘んじてひたすら研究に没頭するのです。
企業や他国の研究機関に行けば満足とはいかないまでも、相応な収入が得られるのに。
そこが「不思議な研究者集団」であるとのいわれです。
私は「義」に生きる「古武士」のような、そんな人たちが国の根底を
支えていると思うと胸が熱くなります。
しかし、問題があります。国は財政悪化を理由に「国立大学の運営交付金を10年間」で
毎年1%ずつ削除しています。現在1470億円です。
そのしわ寄せが、最も研究に情熱を傾けている若い研究者の環境を圧迫し始めています。
加えて国は、国立の大学や研究機関に対して明確な数値目標を含む中期目標を立て
達成の度合いを検証しています。費用対効果ですから、数値目標を否定するつもりは
ありませんが、コロナ禍が猛威を振るう予測不能な事態もこの数値目標の範囲です。
この国の硬直状態が、研究者たちの情熱を削いではいないでしょうか。
ボーダーレスの時代です。予測不能な事象が頻繁に起こります。
国家というものは、そんな事態に立ち至ってもリスクヘッジする必要があるはずです。
少なくとも、高齢化してはいますが世界3位の経済大国です。
「不思議な研究者集団」には「不思議以上の手厚いバックアップ」が必要ではないでしょうか。
財務省主計局が無秩序に経費削減をするのは、彼らの仕事を奪います。
でも、それを監視し、満足でなくても充分な環境を確保するのは政治家の務めではないでしょうか。
そして、それを正確に報じていくのが、新聞メディアの役割だと思います。
コロナ禍解決に意義を感じ、各大学から厚生省のクラスター班に送り出された
「不思議な研究者」たちの縦横無尽な働きに敬意を表したいと思います。
メディアの支援を願います。Goto
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