近代日本文学史を支えてきたのが新聞の文化欄です。
読売新聞の文芸欄。朝日新聞の朝日歌壇。
いずれも新聞が日本文化の発信を続けている紙面です。
目を通されたことがある方は多いと思いますが「新聞が文化を育む象徴」です。
朝日歌壇の話から。歌人の馬場あき子さん(97)が47年間続けてきた選者を
3月末で引退されるそうです。ご苦労様と申し上げたい。歌壇の選者は4名。
朝日新聞の東京本社に隔週で集まり、2週分の全ての投稿に目を通す共選方式で入選作を選んでいます。
馬場さんは「短歌は抒情の文学」、短歌の定型である五七五七七という様式は
「言葉を研ぐ砥石だ」と言う。より良い歌を詠むために必要なのは「言葉を砥石にかけること」・ご自身もこの表現で良いのか、上句と下句のつながりは適切か、何度も考え、直していく。なかなか、できへんが学びます。
そうする内に「きれいな言葉にするという意味じゃなく、言葉を研いでいく位置に、こういうことを私は言いたかったんだという深い思いが歌の奥から出てくる」「そうした発見にもつながることが、歌を詠む喜びでもある」と。
さすが、歌壇最高峰とされる迢空賞(ちょうくう)の選者を務める歌人です。
馬場さんは朝日歌壇選者退任にあたり「元気なうちに退きたい」と。
背筋が凛とします。ご苦労様でございました。
「選びえぬ作者の思い真(ま)に受けて選び抜かんと我心眼で」(如水)
読売の文芸欄に掲載される「よみうり抄」の話です。
新聞の文芸欄は、陸羯南が主筆で創刊された日刊紙「日本」の裏面に掲載されたのが始まり。明治の文豪・正岡子規・高浜虚子・夏目漱石らが紙面を飾り育った。読売新聞も日本近代文学史において一定の役割を果たしてきた。
その文芸欄の片隅に置かれたのが「よみうり抄」です。
文学者や画家・文化人の動向や出版情報、催し物情報などが雑形で掲載、
短いながらも読者を楽しませてくれます。いまも記者たちが直接取材したものなどイキイキとした情報が溢れています。
このほど、その「よみうり抄」が「読売新聞よみうり抄」大正篇第一巻として文化資源社から刊行されました。今後、全5巻の刊行が予定されているという。
大正篇ですから、芥川龍之介の動静などが、まるでSNSのように、細やかに綴られています。他にも島崎藤村(1921年1月30日・付け)が「兼ねて神経痛にて悩みつつありましたがこの程快方に赴きたり」とか。新渡戸稲造(1912年6月26日)の「目下米国を漫遊中なるが来月中旬欧州に渡り十月頃帰朝する由」とか
平塚らいてう(1913年5月24日)が近著「円窓より」は風俗を壊乱するものとして発売禁止を命ぜられる」とか。夏目漱石(1913年8月31日)が近日より「行人」の続編を執筆す。など、生き生きした情報の宝庫になっています。
新聞から文化人の息遣いが聞こえてきます。
こりゃ、新聞命の私としては、読んでみる価値がありそうです。Goto
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