終末時計

 

世界には、人類の未来に警鐘を鳴らす一つの象徴がある。「終末時計」である。

核戦争や環境破壊など、人類文明の危機を象徴するこの時計は、米国シカゴの科学者たちによって毎年公表されている。今年1月、同時計を管理する科学者委員会の米シカゴ大学教授は、残り時間を史上最短の85秒と発表した。

人類は、かつてないほど「真夜中」、すなわち破滅に近づいているという警告である。さらに教授は広島でこう訴えた。「全人類は時計の針を戻す努力をしなければならない」と。

その言葉が胸に響く。なぜなら現実の世界は、その警告を裏付けるかのように、ますます不穏さを増しているからである。米国とイスラエルはイランを攻撃した。

しかも、その前段階としてイランの核施設を徹底的に破壊したうえで軍事行動に踏み切った。これは一つの重大な事実を物語っている。すなわち、核兵器による地球規模の破局が、もはや空想ではなく現実の危機として認識されているということである。

同時に、ロシアはウクライナ戦争において核使用の可能性をちらつかせている。冷戦終結から三十余年、人類は核の恐怖を克服したと思い込んでいた。しかし今、世界は再び核の影に覆われつつある。

今年四月には核不拡散条約(NPT)の再検討会議が開かれる。さらに十一月には核兵器禁止条約の初めての再検討会議も予定されている。これらの国際会議が、人類の終末時計の針を少しでも真夜中から遠ざける契機となるかどうか。世界の叡智が試される重要な局面である。

だが私は思う。終末時計の針を動かすのは、兵器でも技術でもない。人間の心である。核兵器を作ったのも人間なら、それを制御するのもまた人間である。欲望と恐怖に支配された政治は、時計の針を真夜中へと近づける。だが、人間の理性と徳が働けば、針は確実に戻る。

文明の危機とは結局のところ「人間の精神の危機」である。力に頼るか、理に従うか。恐怖で支配するか、信頼を築くか。そこに人類の未来がかかっている。

広島と長崎の惨禍を経験した日本は、世界に対して特別な使命を負っている国である。被爆地が発する「二度と繰り返すな」という叫びは、人類への道標でなければならない。

終末時計は恐怖の象徴ではない。
それは、人類への問いかけである。あなたは、この時計の針をどちらへ動かすのか。その問いに答えるのは、国家でも軍隊でもない。Goto

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