ハニーロンダリング

甘いものほど疑ってかかれ。

「ハニートラップ」という言葉がある。色仕掛けや甘い誘いで相手を油断させ、情報や金銭を引き出す手口だ。政治の世界でも企業経営の世界でも、古今東西を問わず繰り返されてきた。人は欲に弱い。特に「自分だけは大丈夫」と思った時ほど危ない。人生の教訓は単純である。甘い話には気を付けねばならない。

さて、私の朝食もなかなか甘い。毎朝、ヨーグルトにリンゴ、パイナップル、バナナなど数種類の果物を入れ、蜂蜜をかけていただく。それにホットミルク。長年続けている朝の習慣だ。

しかし最近、この蜂蜜は本物なのかと気になる。血糖値が高めだからである。もし蜂蜜と思って食べているものが、実は糖液やシロップ主体の商品だったらたまったものではない。

家人に尋ねると、「値段が高いから大丈夫」「岐阜の養蜂業者の商品だから本物に決まっている」と言う。確かに岐阜県は養蜂業が盛んな地域である。レンゲの花から採れる蜂蜜は古くから知られ、地域産業の一つを形成してきた。

ところが現実はそう単純ではない。
日本の蜂蜜消費量は年間約4万8000トン。対して国内生産量はわずか2600トン程度で、全体の5%ほどしかない。つまり市場の大半は輸入品であり、その中心は中国産である。

そんな中、公正競争を促す業界団体「全国はちみつ公正取引協議会」が、非会員企業の中国産瓶詰め製品にシロップ混入の疑いがあるとして消費者庁に情報提供した。

蜂蜜の品質は本来、ミツバチ由来の酵素であるアミラーゼを示す「ジアスターゼ活性値」などで判断される。しかし近年は、この数値を偽装するため人工的に酵素を加える手口もあるという。シロップを混ぜる。産地を偽る。天然蜂蜜に見せかける。これを「ハニーロンダリング」と呼ぶ。

欧州連合(EU)が実施した調査では、検査対象の約半数に不正の疑いが見つかったという。世界規模の問題なのである。

考えてみれば当然だ。
天然蜂蜜は、ミツバチが花を探し、蜜を集め、巣の中で濃縮し、蜜蝋で封をする。そこから養蜂家が採取し、瓶詰めし、流通させる。気の遠くなるような工程を経て初めて商品になる。そんな手間暇のかかるものが、異常に安い価格で大量に売られているとしたら、少し疑ってみる必要がある。

私はまず、明朝の蜂蜜の産地と販売者を確認してみようと思う。中国産だから即アウトとは言わない。しかし、安さだけを理由に信用するのも危険だ。

もっとも、ここで考えたいのは蜂蜜だけの話ではない。健康食品、サプリメント、機能性表示食品――。現代人は健康志向が強い。しかし「身体に良い」という言葉に飛びつき、その実態を確かめないことも少なくない。健康への関心は大切だが、健康情報への盲信は危うい。

人間学的に言えば、健康は商品によって与えられるものではない。規則正しい生活、適度な運動、十分な睡眠、そして感謝の心が土台である。蜂蜜一つにも世相が映る。ハニートラップもハニーロンダリングも、本質は同じだ。甘いものほど疑ってかかれ、である。人生も健康も、うまい話には気を付けねばならない。Goto

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